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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)867号 判決 1970年1月22日

上告人

関口愛子

代理人

鈴木八郎

中村信逸

被上告人

株式会社関口本店

右代表者清算人

職務代行者

秋山英夫

被上告人

関口昌三

代理人

後藤三郎

主文

被上告人関口昌三に関する部分および上告人の被上告人株式会社関口本店に対する請求中関口久雄を監査役に選任する旨の決議に関する部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人関口昌三の本件独立当事者参加の申出を却下する。

上告人の被上告人株式会社関口本店に対する請求中関口久雄を監査役に選任する旨の決議に関する部分を大阪地方裁判所に差し戻す。被上告人株式会社関口本店に対するその余の上告を棄却する。

被上告人関口昌三の独立当事者参加の申出によつて生じた訴訟の総費用は同被上告人の負担とし、前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中村信逸の上告理由第一点について。

およそ、民訴法七一条に基づく独立当事者参加の申出は、常に原被告双方を相手方としなければならず、当事者の一方のみを相手方とする参加の申出は、不適法であることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三九年(オ)第七九七号同四二年九月二七日大法廷判決民集二一巻七号一九二五頁参照)。また、独立当事者参加の申出は、参加人が当該訴訟において裁判を受けるべき請求を提出しなければならず、単に当事者一方の請求に対して訴却下または請求棄却の判決を求めるのみの参加の申出は許されないものと解するを相当とする。けだし、この種の参加の申出は、訴の提起たるの実質を有し、またもし参加人が訴却下または請求棄却の判決を求めるのみであるとすれば、当事者と参加人との間に審理裁判の対象となるべき請求が存しないこととなるからである。本件についてこれをみるに、被上告人関口昌三は、第一審において、上告人と被上告人株式会社関口本店(以下被上告会社という)との間の訴訟につき民訴法七一条に基づく独立当事者参加の申出をしたが、上告人の被上告会社に対する訴につき、請求棄却および訴却下の判決を求めただけであつて、被上告人関口昌三は被参加訴訟の当事者である上告人および被上告会社に対し何らの請求をもしなかつたことが記録上明らかである。したがつて、被上告人関口昌三の本件独立当事者参加の申出は不適法であるといわなければならない。これと見解を異にし、同被上告人の右参加の申出を適法とした原審および第一審の判断は違法であり、原判決中同被上告人に関する部分は、他の上告理由について判断するまでもなく破棄を免れず、第一審判決中同部分を取り消し、同被上告人の本件独立当事者参加の申出を却下することとする。

もつとも、被上告人関口昌三は、予備的に民訴法六四条により被上告会社のために補助参加の申出をしていることは、記録上明らかであるところ、上告人の被上告会社に対する主位的請求および予備的請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有するから、右補助参加はいわゆる共同訴訟的補助参加であり、この種の補助参加については、同法六九条二項の適用はなく、同法六二条の準用をみるべきものである(最高裁昭和三七年(オ)第一一二八号同四〇年六月二四日第一小法廷判決民集一九巻四号一〇〇一頁参照)。したがつて、原審が被上告人関口昌三の訴訟行為につき、同法六九条二項を適用することなく、同法六二条の規定により被上告会社の利益に効力を生ずるものとして審理裁判したことは、上告人と被上告会社との間の訴訟手続に関する限り結局相当であり、論旨は、被上告会社に対する関係においては理由がないものといわなければならない。

上告代理人鈴木八郎の上告理由第一点ないし第五点ならびに同中村信逸の上告理由第二点および第三点について。

上告人の被上告会社に対する本件主位的請求および予備的請求のうち、清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議に関する部分については、原審において第一審判決を取り消し、これを大阪地方裁判所に差し戻す旨の判決をしている。控訴審において、第一審判決を取り消し、事件を第一審に差し戻す旨の判決があつた場合に、差戻を受けた第一審は、裁判所法四条の定めるところにより、右判決の取消の理由となつた法律上および事実上の判断に拘束されるのであるから(最高裁昭和二八年(オ)第八一七号同三〇年九月二日第二小法廷判決民集九巻一〇号一一九七頁参照)、同条所定の拘束力が生ずる取消の理由となつた控訴審判決の判断に不服のある控訴人は、右判決に対して上告をする利益を有し右判断の違法をいうことができるのであるが、控訴人において右判決の理由に不服があつても、これが取消の理由に対するものでない場合には、右控訴人は右判決に対し上告の利益を有しないものと解するのを相当とする。論旨は、原判決の違法をいうが、いずれも、原審が第一審判決を取り消す理由とした同条所定の拘束力のある判断の違法をいうものではないから、上告人の被上告会社に対する請求中清算人関口愛子を解任し、関口昌三を清算人に選任する旨の決議に関する部分については、上告適法の理由とすることができない。

次に、論旨を、上告人の被上告会社に対する請求のうち、関口久雄を監査役に選任する旨の決議に対する部分について審按する。およそ、社員として有する権利の行使の停止またはかかる権利行使許容の仮処分決定においては、裁判所が右仮処分によりみだりに会社の経営権争奪に介入することがないよう厳に戒しむべきものであることはいうまでもなく、右仮処分の申請はその必要最少限度においてのみ許容せらるべきものといわなければならない。そして、この種の仮処分決定は、右の趣旨に照らし、その決定中に明示された部分に限りその効力を生ずるものというべきである。したがつて、原審の認定した本件仮処分決定中いわゆる社員権行使許容を命じた部分は、右仮処分申請人である被上告人関口昌三に対し、関口喜美子名義の同決定判示の株式一五〇〇株についてのみ、株主としての権利行使を許しただけであつて、定款により株主総会における議決権行使の代理資格を株主に制限している被上告会社において、被上告人関口昌三に株主関口伊三郎の本件株主総会における議決権を代理行使する資格をも与えたものと解することはできないものといわなければならない。してみれば、右仮処分決定が右の効力をも有するものとし、被上告人関口昌三のした関口伊三郎の議決権の代理行使を有効とした原審の判断は違法である。また、株式を相続により準共有するに至つた共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、当該株式につき株主の権利を行使すべき者一人を定めて会社に通知すべきところ、原審は、亡関口リノ名義の株式二〇〇〇株につき、その共同相続人から会社に対し、右の通知をしたかどうか、また何人が株主の権利を行使すべき者として定められたかについて、何ら判示するところがない。そして、被上告人関口昌三のした関口伊三郎の議決権の代理行使を無効とする以上は、右通知の存否、内容のいかんによつては、本件株主総会において関口久雄を監査役に選任する旨の議決は、成立しなかつたことになる。昭和三八年五月六日同人につき監査役選任の登記がされたことは原審の認定するところであり、したがつて、上告人の被上告会社に対する右決議の効力がないことの確定を求める本件主位的請求をたやすく排斥した原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならない。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れず、原判決と同旨の第一審判決も取り消すべく、第一審において更に審理を尽くさせるのを相当とし、右主位的請求を破棄差戻すべきものとする以上予備的請求の当否につき判断をする必要をみない場合もありうべきであるから、右決議に関する部分につき主位的請求に併せて予備的請求も大阪地方裁判所に差し戻すべきものとする。

よつて、民訴法四〇八条、四〇七条一項、三八六条、三八九条、三九六条、三八四条、九四条、九五条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

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